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「そうだ、無垢の床にしよう」平澤さんは考えた。
住む人が触れる時間が一番長い内装は床である。その床に本物の国産の無垢材が使えないだろうか。できるだけ自然に近い形で感触を楽しめる塗装や仕上げにもこだわりたい。小さい時に田舎の家や学校やお寺などで経験した、なんとも言えない木の床の感触を都会のマンションに再現しよう。
しかし、理想の床材を探し始めると、すぐに壁にぶち当たった。無垢の内装材が無い訳ではなかったが、それは主に一戸建てに使われるもの。製造業者は、鉄筋の共同住宅には納入したがらない。
マンションの室内は一戸建てと違って、湿度・温度変化が激しい。内装に使われる木材は、反ったり割れたり狂いが生じたりする可能性がある。合板や集成材と違い、無垢材は狂いが生じやすい。「クレームになりますから」多くの製造業者から断られ、平澤さんは途方に暮れた。
今回は、オーナーが木材のことを心底理解してくれている。めったにないこのチャンスを逃す訳には行かない。業界関係者から「松阪に横濱さんという人がいる」情報が入った。平澤さんはすぐに松阪へ飛んだ。
築150年の武家屋敷、松阪城御城番屋敷にアトリエをかまえ、山と街を結ぶコーディネートを行っている横濱金平さん。
自宅のマンションを「ビニールハウス」と言い切る横濱さん、いつの間にか家の素材は、プラスチックやビニールのものが多くなったと、過度に進む「ビニールハウス化」に警鐘を鳴らす。
「暮らしの場が安心できて、快適であること、もっと言えばそこへ帰ると本当に気が休まり、癒されるというのが住まいの本質なのではないか」と横濱さん。
「声高にシックハウスの問題を唱えるつもりはないが、自分の家族のことを考えた時、もう少しバランスがとれた素材構成があるのではないかと気がついた。それを追及して行ったら、日本に古くからある木材にたどりついた」
だから横濱さんは、90年代後半から、紀伊半島の木で都会に一戸建てを建てるためのネットワークを築いてきた。ここ十数年でそういった一戸建てのプロジェクトは実績を上げ、ネットワークの構成メンバーが自律的に動けるようになってきた。
横濱さんの視点は戸建てに留まらない。「マンションは現代人にとっての民家」
マンションに自然素材である無垢の木材を取り入れることで、より多くの人の住まい、暮らしが変わると考えた。
しかし、戸建て用の材料をマンションの内装に持ち込めば良いというほど単純な話ではなかった。マンションの空気環境は、木材にとっては非常に過酷である。コンクリート工事が終わった直後の多湿の現場で、内装工事が行われる。完成入居後も季節による温度変化やエアコンによる乾燥など、一戸建てに比べて木材に過酷な環境が続く。
そういった環境下でも割れや狂いの出ない建材を開発する必要があった。それはまさに、マンションの企画者である平澤さんが求めるものでもあった。